第2回『嫌われる勇気』編( 2 )

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【結末ばかりに気を取られ この瞬間(とき)を楽しめない メマイ…】
(B'z『ultra soul』から引用)

 「オープンマインド」に引力を感じつつ、しかし暗い日々は続きます。
 電車に乗るとドキドキして、叫びそうになるのを堪えたり。通りすがる人から悪口を言われているような気がしたり。ニュースを見ていて、なにもしない自分に嫌気がさします。何を主張すべきか、もうずっと分かりません。いつからか、いろんなことについていけなくなりました。ついていけたことなんてほんとうはなくて、ずいぶん前からはぐれていたのかもしれませんが。
 身近な人ともどう接するのが最適なのか判断できなくなってきた頃、強烈な疎外感をおぼえました。
 狭い真っ暗な部屋の中で、テンパって動いて、迷子です。

 そんな中、気づくと『ときめきメモリアル Girl's Side 4th Heart』という恋愛シミュレーションゲームのプレイ動画を眺めるのが日課となっていました。そこにオープンマインドの気配を感じて。
 自分は、「ときめく」なんて感情を持っていないと思っていたので、果たして自分はときめくのか、という、いじわるな興味もありました。

 結果、すごくときめくし、すごくハマってしまって、初代までプレイ動画を見漁ることとなりましたが(ときめくほどにマインドがオープンしていくのを感じました)、その中でも4thに登場する本多行(ほんだ いく)という存在が気になりました。

 彼は攻略対象のキャラクターの中では少し異質なところがあるというか、大きな枠があるとするならば、そこからははみ出したような(飛び越えたような)存在です。

 おもしろいイベントがたくさんあるのですが、その具体的なエピソードよりも、日常会話から垣間見える彼の人間性に感銘を受けました。
 たとえば、彼自身ははみ出ていることに対しての負い目はなく
「うんうん。君はそうなんだね、オレはこう!」※
 と、いつも明るく楽しそうに振る舞うところ。自身の特性については受け入れるけれど、他者と異なるからといって自らを特別だとは認識していません。
 そしてこの台詞のように、自己と他者をばっさり分けて会話を進めていくところ。相手のことも自分のことも、ただそのままにまっすぐに受け入れる姿勢から、自身を含む「人」あるいは(彼は生き物に対しても人と同様な接し方をしていたので)「生き物すべて」 に対しての敬意を感じました。

 彼はいつも学年でトップの成績を残しますが、競争心からその結果となっているわけではないというところと、自分の成績への興味は薄く、プレイヤーの成績(正確には、プレイヤー自身)に関心を寄せているところもいいなあと思いました。

 彼から感銘を受けまくっていましたが、それはわたし自身が彼と対極にある価値観で生きてきたからなのだと思います。「こうやって生きられたらいいのに」が凝縮されたような人物像でした。

 ちなみに、彼自身が抱く恋愛感情のようなものについては
「これは恋愛感情なのか、それともヒトとしての本能なのか、それともあるいは一種の帰属意識なのか」※
と語ります。
 ときメモって、イケてる男子とイケてる美女が、朝の登校中に食パンくわえてぶつかって、そこからロマンチックな恋が始まる、みたいな内容だと思っていましたが、こんなに視点が多かったなんて。 現代の恋愛シミュレーションゲームの想定外の広さと深さに驚いてしまいました。
(※記憶の中の台詞であり、正式な引用ではありません)

 

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【夢じゃないあれもこれも その手でドアを開けましょう】
(B'z『ultra soul』から引用)

 プレイ動画では飽き足らず(ゲームを買えよという話なのですが、何しろお金がなく不可能でした)二次創作を調べてみると、そこにはとんでもない人たちがいました。
 これまで学んできたことを全てこのゲームの考察に生かしているのではないかというほど事細かに分析し、それをベースに創作している方々。もはやそれらは萌えの追求というより、思考実験のように見えます。
 二次創作をしている方自身の発言や思想にも感銘を受けることが度々あり、こっそりファンメールを送ってみたところ、お返事をいただいてしまいました。その中で、
「私の作品に通底する倫理観に興味を持ってくれたなら、この本もきっと好きだと思います」
と、教えてくださったのは『嫌われる勇気』という本でした。

 ちょうどその頃、すなば書房さんにて、本にまつわるエッセイを連載することが決まります。

 何軒もはしごして、最終的には秋葉原のブックオフで、その日の内では最安の900円で『嫌われる勇気』を購入しました。 最初に読む本は、どうしてもこれがよかったのです。この本は、そのタイトルから、オープンマインドの鍵となるのではないかと感じました。
 店員さんや周りのお客さんに「この人は嫌われる勇気が欲しいんだね(笑)」と思われているのではと恥ずかしくなりつつ、いそいそと店を出る。今思えば、あのタイトルやデザインは、最初の試練だったのかもしれません。

【第3回へつづく】

 

f:id:sunababooks:20241228101006p:image中村(すなば書房):エッセイの打ち合わせで「ときメモ」について熱く語ってくれた市村さんが忘れられません。かっこよかったです。

市村:文章中には書けませんでしたが、「スリル」(布袋寅泰)に感動して、毎日聴いていた時期もありました。

 

f:id:sunababooks:20241228101152p:image『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』
著者:岸見一郎, 古賀史健
発行元:ダイヤモンド社
初版発行:2013年12月

 

f:id:sunababooks:20241228100933p:image市村柚芽/いちむらゆめ
生活の一部として絵を描く。
好きな音楽はデヴィット・ボウイの「Starman」。
HP:https://www.ichimurayume.com/