第13回『嫌われる勇気』編( 13 )

最後に、とても好きだった考え方を書いて終わります。
それは、「人生は点の連続であり、連続する刹那である。『いま、ここ』に強烈なスポットライトをあてて生きなさい」という考え方です。
「過去にどんなことがあったかなど、あなたの『いま、ここ』にはなんの関係もないし、未来がどうであるかなど『いま、ここ』で考える問題ではない」
(岸見一郎, 古賀史健『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』 p.271)
「人生とは点の連続であり、連続する刹那である。そのことが理解できれば、もはや物語は必要なくなる」
(岸見一郎, 古賀史健『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』 p.272)
「ライフスタイルは『いま、ここ』の話であり、自らの意志で変えていけるもの」
(岸見一郎, 古賀史健『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』 p.272)
「いま」とは、わたしが見てきた過去や、わたしそのものを超えた、歴史の存在の証でもあります。奇跡のような末裔は、たとえ嘘の重なりであったとしても、ほんとうです。
それは、過去のしがらみや、未来にとらわれる必要がある、というわけではありません。過去や未来ですら、今の自分に介入させてはならないということです。完結した人生の中で、わたしが生きるべきは、過去でも未来でもなく「いま、ここ」であること。

【そして羽ばたくウルトラソウル】
(B'z『ultra soul』から引用)
『嫌われる勇気』についてのエッセイでは、全編を通してB’zの『ultra soul』の歌詞を一部引用させていただき、合間合間に画像とともに挟んでお送りしてきました。
ウルトラソウルが輝くのは、戦うのは、羽ばたくのは、どんなときなのだろう。
この曲では、言葉や歌声やギターの音色によって、ウルトラソウルが輝いたり、戦ったり、羽ばたくにいたるまでのことが語られています。
その様子は、本書を読み、アドラー心理学に触れ、「共同体感覚」という規範的な理想について考えているときの自分の心境と重なりました。
初回の記事で、本書を開くまでのことを長々と語ったのは、その過程そのものがこの読書体験の一部であり、『嫌われる勇気』的でもあり、『ultra soul』的でもある、と思ったからなのでした。
有名な曲だったのに、何度か耳に入ってきたことがあるだけで、ちゃんと聴いたことがなく、今ここでこうして出会えたことを、心から嬉しく思っています。
この世界には、ほんとうにたくさんの人がいて、ほんとうにたくさんの歌があって、絵があって、本があります。
受け取る方としても、作り手としても、さすがに多すぎてうんざりすることがありますが、すべてがやさしさのひとつであるならば、きっと、いいことなのだと思います。なにをしても二番煎じみたいになってしまう気がすることも、AIがすごい技術の絵を描いたり曲を作ったりしてしまうことも含めて、いい時代、なのかもしれません。
…しかし、この文章を書いているさなか、あっけなく躓きました。久しぶりにすごく痛いです。笑えてきます。転ぶときには、ほんとうに呆気なく転ぶのですね。視界が狭まって、よくわからなくなってきて、気づいたらまた、真っ暗な部屋に帰ってきていました。
二万字を超える文章を長々と書いてきたけれど、わたしはなにを学んだのでしょう。ここまで読んでくれたあなたに、その時間だけの対価を受け渡せたのでしょうか。けっこう長い時間を使って考えてみたけれど、わかりませんでした。
『嫌われる勇気』を初めて読んだとき、わたしや「青年」のような人の中でも、この本を手にとることがないであろう人のことを「助けられるのではないか」と思って、テンション高めでエッセイを書き始めました。もはやそれは、恥ずかしい動機です。
八方塞がりでつらかった時期を抜け、舞い上がっていたのですね。アドラー心理学とB’zがあったら、無敵なような気がしました。今は、「人生に無敵などない」ということだけ、深く胸に刻まれています。
わたし一人での企画であれば、これらの文章を世に出すことは諦めていたと思います。しかし、すなば書房さんとご相談の末、掲載していただくことにしました。「他者信頼」という言葉が浮かんできたからです。都合よく思い出しているだけかもしれませんが、今はそれに従ってみたいと思いました。なんにも変われていなかったけれど、抗うことだけは、きっとできる。
また本を読みたいです。でも、しばらくは読めないかもしれない。どうだろう。
本について考えたり、また開くことができたら、エッセイを書いてみます。それがいつになるのかは全然わかりませんが、また、あなたと、ばったり会えたらうれしいです。
ここまでお付き合いいただき、どうもありがとうございました。

【『嫌われる勇気』編おわり】
中村(すなば書房):自分の現状に重なるところがあって途中視界がぼやけました。「いま、ここ」に熱いくらいのスポットライトをあてて生きたいですね。
市村:弱さはどうにもならないのかもしれないけど、抗うことをあきらめるのだけはやめたい。何度だってスポットライトを当てなおそう。まさか自分の書いたエッセイがこんなに自分を助けてくれるとは思いませんでした。今、頭の中にでかでかと「ありがとう」が浮かんでいます。
『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』
著者:岸見一郎, 古賀史健
発行元:ダイヤモンド社
初版発行:2013年12月
市村柚芽/いちむらゆめ
生活の一部として絵を描く。
好きな音楽はデヴィット・ボウイの「Starman」。
HP:https://www.ichimurayume.com/